第一話

2/80
187人が本棚に入れています
本棚に追加
/80ページ
 猛暑の季節を越え、頬を撫でる肌寒い風が秋の到来を告げる。  土を固めただけの、泥の臭いに満ちた荒れ道を一台の馬車が走っていた。一頭立ての小柄な馬車だ。  御者台で手綱を握っているのは、革製のコートを纏った栗色の髪をした男だった。  舞い上がる土埃を防ぐためだろうか、顔の半分近くを物々しいゴーグルで覆ってしまっているが、その下から覗く表情にはまだ幼さが残っている。  十六から十八歳ほどか、まだ少年と呼べる年齢だろう。  彼は手綱を片手に握ると、腰に巻いた鞄から紙に包まれたサンドイッチを取り出して、それを口いっぱいに頬張った。  現時刻は正午を回って二時間ほど。少し遅めの昼食である。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!