第一話

3/80
187人が本棚に入れています
本棚に追加
/80ページ
 続けてもう一口、二口とサンドイッチにかじりついていく彼だったが、その動作はどこか固い。  馬車の操作に馴れていないのか、手綱を操る手つきは危なっかしく、また、そのせいで食事にも集中出来ていないようだ。口に含んだパンの塊をなかなか飲み込めないでいる。 「もう、行儀が悪いですよ」  そんな彼の様子に苦笑を浮かべたのは、客室の座席に腰掛けていた若い女性だった。  歳は御者の男と同じく、十代の後半から二十歳の手前といったところだろう。  腰まで届いた長い頭髪は黒く、馬車の震動に合わせて揺れるそれは、上質な絹細工を思わせるほどに艶やかだ。  また、女性にしては長身と言えるだろう。細い体をゆったりとした灰色のロングセーターで包み込み、その下から伸びる長い両足は、黒のタイツで覆われている。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!