第一話

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 そう言って女性――ベルは、やれやれと小さなため息を吐いた。  まるで聞き分けのない子供を見るような眼差しに、リントと呼ばれた男性は鼻を鳴らす。 「それに、ツケだって回って来ているだろ。  時計を見てみろよ、もう昼をとっくに過ぎてるんだぜ?」  くしゃくしゃとサンドイッチの包み紙を丸めて、リントは苛立ったように言う。 「進行が予定より遅れている。この調子じゃ夕刻前の〝祭〟に間に合わない。  『御者がトロい未熟者だから遅刻しました』なんて、笑い話にもならないだろうが」 「ああ、それを気にしていたんですか」  むっ、とリントは顔をしかめた。ゴーグルの下の表情には、微かな困惑の色も滲み出ている。 「『気にしていたんですか』って、なにをそんなのんびりと……。  おい、ベル。〝祭〟は一年の内に決まった時期の一度きりなんだろ? ここまで来て無駄足踏むのは嫌だぞ、俺は」  不機嫌にそう言ってやるが、ベルはくすくすと笑うばかりだ。  なにが可笑しいのだ、と客室の方にリントが振り向くのと同時、胸の前で指を一本立てた彼女が、形のいい唇を開いた。
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