第一話

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 リントは額に手を当てて、肩をがくりと落とす。  彼は行き交う通行人たちをベルに示して、 「見ろよ、この様子じゃあ〝祭〟のメインイベントにはやっぱり間に合わなかったみたいだ。家に帰っていく連中がほとんどだからな。  読み終わった〝正典〟が片付けられちまったら、明日まで手が出せなくなる」  〝正典<カノン>〟――神からの贈書、などとそれを呼ぶ人間もいる。  世界各地のいたる地域に存在するとされている聖なる書物には、神の祝福を授かるための方法が記されている。それこそが〝儀式〟であり〝祭〟なのだ。 「そうですね、もうすぐ日も沈んでしまいます。  もしかしたら既に〝正典〟が睡眠期間に入ってしまっているかもしれません」  唸るように言って、ベルは夕焼け空を見上げた。  〝正典〟最大の特徴は、一年の内の決まった時期にしか読む事が出来ないという点だろう。  これをベルは睡眠期間と表現していたが、この間はたとえどのような怪力者が力を込めたとしても、〝正典〟の頁がめくられる事はないとされている。
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