No.006

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「いっくん、ご飯できたよ!」 「今日は、親子丼かあ…。」 「前に、美味しいって言ってくれたから、また作ってみたの。」 「じゃあ…いただきます。」 「いただきます!」 食事中、2人は会話をほとんどしない。 テレビを観ながら、黙々と食べ進める。 前の様な、明るい食事ではない。 「…。」 「…。」 「心春ちゃん、料理どんどん上手くなるね。」 「毎日、料理してるおかげかな?」 「いいお嫁さんになるよ。」 「…うん…。」 いいお嫁さんになれるなんて、今の私にはどうでもよかった。 私のなりたいお嫁さんは、いっくんのお嫁さんになる事…でも、それが叶わぬ夢なら、私にとっていいお嫁さんだと言う言葉は、褒め言葉でもなんでもない…。 それ以上、2人の間に会話はない。 お互いに、どうすればいいのかわからない。 冷たく、長い時間が過ぎているように感じてしまっていた。 「ごちそうさま。心春ちゃん、先にお風呂行っていいよ?食器は俺がやっとく。」 「でも…。」 「毎日、俺の三食分用意してくれてるから…それのお礼だから。疲れてるでしょ?」 「じゃあ、お言葉に甘えて…。」 逸樹は、心春が風呂場へ行くのを確認すると、1つため息をついて、無心で後片付けをする。 こうやって、何かをしていないと、不安や悲しさに押しつぶされそうになる。 空気みたいなお互いの距離は感じる。 でも、一向に恋人だけを思い出せない…もう、正直限界がきているのか、心と身体のバランスは保っていられない。 悲しみや不安とかなんて感情、いっそ捨てられたらいいのに…。
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