No.008

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数週間後。 とうとう、いっくんがこの部屋から出て行く事になった。 仕事もなんとか、前みたいに出来るようになって、新しい部屋も見つかったから…。 「いよいよ、明日だね…。」 「うん。」 「心春ちゃん、今までありがとう。」 「ううん。いっくんと一緒に過ごせて、楽しかったよ。」 「うん。俺も、心春ちゃんと過ごせて楽しかった。」 今日が、心春ちゃんと2人で食べる、最後の晩餐(ばんさん)になった。 正直、寂しくないと言えば嘘になる。 でも、これ以上一緒にいても、お互いに苦しいだけだ。 「いっくん、明日は仕事休みでしょ?私も休み取ったから、今日は飲まない?お酒、いっぱい買っちゃったの。」 「…うん、飲もうか。」 シラフで、最後の夕食を彼とするのは辛かった。 とてもじゃないけど、私には耐えられない。 「心春ちゃん、結構酒強いんだね?」 「いっくんが強いから、一緒にこうやって飲んでる内にね…ウチは、お父さんもお母さんも強いから、遺伝もあるかも。」 「そうなんだ?」 こんな、他愛もない会話が楽しかった。 でも、彼女とこんな風に2人きりで飲むのは、今日が本当に最後なんだ…。
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