No.008

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次の日。 どうやら、心春はソファで寝てしまったようだ。 ケータイが鳴り、目を醒ます。 メールは、既に部屋には姿のない逸樹からだった。 『おはよう。黙って出て行く事をお許し下さい。心春ちゃんと過ごせて楽しかった。幸せになって下さい。お元気で。』 「いっくん…。」 彼からの最後のメールは短くて、二度と会えない事を予測させた。 もう、私の隣には愛おしい彼がいなくなった…。 見送りは、なんとなく気まずくなりそうで、心春ちゃんよりも先に起きて出発した。 荷物は既に運んであったし、スムーズに引っ越しが出来た。 でも、部屋には明るい声も、傍にいた彼女の姿のない部屋は、なんだかシンと静まり返っていた…。 心春は、逸樹との思い出が詰まった物を、全てダンボールに詰め込んだ。 「これで全部かな。」 ふと、左手の薬指には、エンゲージリングがしてあった。 それを、ダンボールへ入れる事が出来ず、ストラップとしてケータイに着ける。 思い出の詰まったダンボールは、捨てる事が出来ずに、クローゼットの奥へとしまった。 いつか、この指輪も思い出の詰まったダンボールも、捨てられる時がくる。 だから、それまでは持っていたかった。 私にとって、人生で彼以外と結婚なんて、考える事が出来ないから…。
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