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次の日。
どうやら、心春はソファで寝てしまったようだ。
ケータイが鳴り、目を醒ます。
メールは、既に部屋には姿のない逸樹からだった。
『おはよう。黙って出て行く事をお許し下さい。心春ちゃんと過ごせて楽しかった。幸せになって下さい。お元気で。』
「いっくん…。」
彼からの最後のメールは短くて、二度と会えない事を予測させた。
もう、私の隣には愛おしい彼がいなくなった…。
見送りは、なんとなく気まずくなりそうで、心春ちゃんよりも先に起きて出発した。
荷物は既に運んであったし、スムーズに引っ越しが出来た。
でも、部屋には明るい声も、傍にいた彼女の姿のない部屋は、なんだかシンと静まり返っていた…。
心春は、逸樹との思い出が詰まった物を、全てダンボールに詰め込んだ。
「これで全部かな。」
ふと、左手の薬指には、エンゲージリングがしてあった。
それを、ダンボールへ入れる事が出来ず、ストラップとしてケータイに着ける。
思い出の詰まったダンボールは、捨てる事が出来ずに、クローゼットの奥へとしまった。
いつか、この指輪も思い出の詰まったダンボールも、捨てられる時がくる。
だから、それまでは持っていたかった。
私にとって、人生で彼以外と結婚なんて、考える事が出来ないから…。
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