水都の派遣使が世界の王にした話

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水都の派遣使が世界の王にした話

無為にして全てを手中にし、それゆえに一物も持たれぬ王よ 全知にしてすべてを見通され、それゆえに何物も知らず何も見えぬ王よ その偉大なる御業の成就のために、心骨砕ける労苦を怠惰のなかで指一本動かさずなされる王よ 神兵が西の果てにある砂漠にて、骸をさらし熱風にその肉を剥ぎ取られております。東の果てでは密林に潜む蛮族の長に降伏を薦める使者が、今まさにつるし上げられ、煮え立つ青銅の釜にて釜茹でにされようとしております。 その砂漠の砂一粒とて王の持ち物でないものはなく、蛮族の腰にさげられた玉鋼の剣、その一瞬の陽光のきらめきであってもこれは王のものなのでございます。 きらめきの一滴。愚昧なる我の見聞録にお目通しください、王よ。
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