神の代わりに

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 生物はこの世界の王であり、また寛容でもあった。好奇心のおもむくまま、警戒心のかけらもなく母である人に近づいた。右足のかかとが湖水に触れている。生物は感触を体感しようとそれに近づき、母は噛り付かれるんじゃないかと恐怖してあわてて鎖梯子をのぼった。のぼっている途中でこの生物に対して、正体を見極めようという好奇心が動いた。じっと湖水に目を落とす。懐中電灯の狭い明かりの輪っかを生物は暗い水を静かに盛り上げながら何度も通過した。白くブヨブヨしたその生物は鎖梯子の下で、母と同じく好奇心と孤独の土壌ではぐくまれた他の生き物への愛着を抱いて漂っている。  母は小さく微笑みながら無線機に「今、女神に会えたわ」と言った。
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