嫉妬

2/10
前へ
/275ページ
次へ
自分の教室のドアをあけたら、ひぃちゃんがあたしに飛び付いてきた。 「どうだった!?」 …言えなかった。 これが現実なのに言い出せなくて固まる。 「…っいなかったんだよねー、廉!」 少し明るめに振る舞うのは、泣きそうなのを隠すため。 なんだろう。 この渦巻くような汚い気持ちは。 さっきの女の子に対してだ。 羨ましい…? それを越えているかもしれない。 …やだやだやだやだ。 自分のなかの気持ちと、どんなに戦っても消えなかった。 「…大丈夫?」 ひぃちゃんの声にハッと顔をあげた。 「…えっ?」 間抜けな声が出る。 我ながら阿呆だ…。 「…隠し事はよくないよ?」 ひぃちゃんが優しい言葉をかけてくれた。 好き。 好きだよ、ひぃちゃん。 だから、いつかひぃちゃんにもこんな感情を抱くようになるかもしれない自分が怖い。 『廉!好きだよっ』 『はいはい』 あの頃は半分当たり前の世界だった。 こんなふうに言い合うのは。 廉の『バーカ。』も、甘めの声も、頭を撫でる手も全部。 全部あたしが欲しい。 消えてから、こんなことを思うなんてずるい。 あたしはいつのまに、こんな臆病になっていたのだろう。
/275ページ

最初のコメントを投稿しよう!

666人が本棚に入れています
本棚に追加