プロローグ

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   ある夏の日。  周囲を山に囲まれたその盆地は、田園風景が広がる緑一面の光景だった。  湿度の強い真夏の風は、緑の木々や葉を揺らし少女の頬を激しく打ち付ける。  艶やかな黒髪は、風に煽られ中空に舞い上がり靡いている。  少女の名は、本間 歌津美。  母方の実家にお盆で帰省し、大人達のつまらない会話から避難し、外の田んぼの前に佇んでいる。  視界の中にはビルどころか、建物らしい建造物などひとつも無い。  母親の祖母の家以外、田畑しか無いのでは無いかとさえ思う。  勿論、コンビニなど無い。 「歌津美。どこに行ったの、歌津美ぃ」  歌津美の母の声は辺りの山に響き渡り、山彦となって少女の耳に飛び込んでくる。  都会の我が家なら煩いだけだが、これだけ誰もいなければ特に気にもならない。  そして歌津美は、こっちの方が好きだった。  煩わしい人間関係やゴミゴミした雑踏よりも、何も考えずにシンプルな自分でいる事が出来るからだ。  家族旅行に行かずとも、祖母の家になら喜んで同行する。
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