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「君も知っての通り、僕はサンタクロースだ。子供たちにプレゼントを届けるために、普通の人間じゃできないことも、できる。まぁ言ってしまえば普通じゃないし、住んでいる場所も“ここ”じゃない。だからこそ、君を安全にこの家から逃がすことができる。もちろん、君を怖がらせるようなことはしないと誓う。決めるのは君だけど、この寒空の中、小さな女の子を1人で放り出したくはないから、どうか提案に乗ってほしい」 何だか肝心な部分が語られていないような印象は受けるけど、わたしの望みはただ一つ、この家から、家族から逃げ出すこと。 一晩中歩き続けても、その先で何が待ち受けていようとも、それで構わないと思っていた。得体の知れない怪しい男の誘いを受けても、望みが叶うのなら結果は何も変わらない。 誓い。約束。そんなもの、どうだってよかったのだ。 「ただ了承した場合、君はもうこの家――いや、街には戻れなくなってしまう。そのことを踏まえた上で、結論を出して」 頼まれたって戻らない。ここにわたしの居場所はない。 「――いいよ。あなたの家に連れてって」 サンタクロースは安堵した表情を見せる。彼の本当の目的が何であろうと、わたしの身は今この瞬間、彼に委ねられた。 「ありがとう。だけど家に行く前に、プレゼントを全て配ってしまわないと。悪いけど、少し眠っていてね」 ふわりと体が浮き、サンタクロースの腕に抱き抱えられる。手袋をしたサンタクロースの掌(テノヒラ)が顔を覆ったかと思うと、意識は急激に遠のいていった。
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