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いくらサンタクロースが時間を止めているとはいえ、扉を2枚ほどへだてた場所では両親らが眠っている。
一刻も早くこの場から逃げ出したくて、知らずに口調も早まっていく。
だがサンタクロースは腕を離さない。それどころか諭し、説得することもやめ、黙ったまま真剣な目をしてわたしを見ていた。
思わず視線を逸らす。何度も腕を振るが、拘束は解かれない。せっかく願いが叶ったのに。今日を逃せば、二度と訪れないかもしれないチャンスをようやく手に入れたのに。
家族が生き続け、自身が殺されでもしない限り、この家から逃げ出すことは不可能なのか。
唇を噛む。流したくもない涙が零れ、イブを抱く自由な右手にも力が入る。
大して長くもない時間で、何粒の涙を流したろう。どれほど強い鼓動を聞いただろう。何も言えなくなったわたしに対し、沈黙を破ったのはサンタクロースだった。
「5分間、時間をくれないか」
理解のできない内容に顔を上げる。サンタクロースは続ける。
「手は離す。ただ少し時間がほしい。5分でいい。その間はまだ、逃げないでほしいんだ」
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