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わたしの返事も待たず、宣言通りサンタクロースは腕をつかんでいた手を離した。
思ってもみなかった言葉。意図の見えない提案。5分間、彼は何をする。5分間で彼に何ができる。5分待ったら、わたしの願いは叶えられる?
様々な疑問が渦巻き、けれどそれを声に出して問うこともできず、わたしは小さくうなずいた。
もしもわたしが首を縦に振るまでサンタクロースが手を離さなければ、きっとわたしは約束を破っていた。
「ありがとう」
サンタクロースは白い大きな袋をがさごそとあさるとコートを取り出し、わたしに着せた。
誰かへのプレゼントだったんじゃないの?そう聞いてみたが、彼は「違うから、大丈夫だよ」と笑った。あの袋の中には配るためのプレゼントしか入っていないと思っていたので、驚いた。
サンタクロースがわたしを安心させるための嘘かとも疑ったけど、それ以上はなにも言わなかった。
わたしとサンタクロースは外へ出る。サンタクロースは誰かと話しているようだった。といっても深夜、周囲に人の姿はなく、耳に手をあてているようだから、なにか通信機器でも使っているのだろう。
サンタクロースはこっちを見ておらず、距離もある。だけどわたしは逃げない。
普段は決して見ることのできない満天の星空。様々な色の家の屋根を覆う雪。
息を吐くと、それは白くなって空中に消える。そんなことを繰り返していると、いつの間に移動したのか、サンタクロースはわたしの隣に来ていた。
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