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「……刻。刻が正しいことくらい、俺だってわかってる。でも、大切な友人を失いたくない。自由に気負いなく語り合える友人を…刻を、俺は失いたくないんだ」
刻は黙って朔の言葉を聞いていた。
涙を流しながら紡ぐ、朔個人の想いを。
やがて。
陽が落ち始め、木々が重なる湖の近くは、闇に包まれつつあった。
「………刻、帰ろう」
流れていた涙はようやく止まり。朔は乾きつつある涙を拭き取りながら立ち上がった。
「………刻?」
返事がないことを訝しんで、朔は刻に目を向けた。
微かに見える刻に、朔は近付く。
「………おい、刻」
「朔王子は、勘違いなされております」
朔が呼び掛けると、刻が平坦な声音で唐突に言った。
朔は訳が解らず、ただ黙って続きを待つ。
「…俺だって、ホントは嫌です。せっかく友人になれた朔王子と、こんな風に敬語で会話するなんて。……でも、それでも。傍にいられるだけマシだと思ったんです。俺は、貴方の傍に在ります。貴方が俺に、そう望む限り」
刻はそう言って、片膝をつき、頭は上げたまま、胸に手を添えて真っ直ぐに朔の瞳を見つめた。
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