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文久四年、元旦。
新春の華やかな香りを求めて賑わう京の町。
人々の顔は新しい年を迎えた喜びに染まり、一張羅を着込んで向かった初詣の参詣道はなんともいえない熱気にあふれている。
そんな往来の中、澄んだ粋の良い声がひとつ。
「はーい、よってらっしゃいみてらっしゃい!!皆々様におかれましては新年明けまして、まことに御目出度きことにございます!!」
ごった返す人の波が彼の人物の前で続々と足止めをされる。
それはあまりにも軽やかにとんでくる中性的な声と、その奇抜な出で立ちのため。
まわりにつられてふと足を止めた青年は、ぎょっとした顔でつぶやいた。
「うわっ、すっげえ髪の色・・・!」
おおよそ、人のものとは思えない鮮やかな桃色の髪。
腰まで届くかというそれは金の紐で先の方が結ばれている。
髪色だけではない。
さらに若紫の烏帽子、中黄の水干、萌黄の袴。
顔には恵比寿の面をしているため、男か女かは分からない。
とにもかくにも奇抜、という言葉がしっくりとくる様相である。
「年初めの景気付、本年の福を願いましては僭越ながらもこの私、恵比寿屋が舞を披露させていただきます!!!」
彼の人物―どうやら恵比寿屋というらしい―がはらりと袖をひるがえすと、往来からは、わあっと歓声が上がった。
「世の中には変わった人間がいるもんだなあ・・・なあ、平助?」
恵比寿屋の髪色を見て絶句している青年の隣に、ずいと大柄な男が歩み出た。
「原田さん、あの髪色どうなってるんだろう??俺、あんな色の髪初めてみたよ」
「いやー、オレもだわ。なんかの染料で染めてんのかね?」
ひょいっと背伸びをした小柄な男も目を細める。
どうやらこの3人、連れだって初詣に来た帰りらしい。
それを証拠に手には出店で買い込んだ諸々。
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