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ひとしきり舞が終わり、大げさな身振りで四方に礼をすると、恵比寿屋のまわりは拍手に包まれた。
「拍手喝采、千客万来、皆々様、まことにありがとうございます!」
件の三人も例外ではなく、見事な舞を披露した恵比寿屋に惜しみない拍手を送った。
「私の酔狂にお付き合いいただいた皆様の今年一年のご幸福をお祈りいたします!!」
くるり、と恵比寿屋が身をひるがえしたそのときだった。
一陣の風が、吹く。
「「「!?」」」
さっと吹いたそれに思わず目を閉じ、あけたそこには。
恵比寿屋はもういなかった。
狐につままれたような顔をする人々の頭上には、『またの機会には御贔屓に。恵比寿屋』と書かれた紙がざあっと舞っているのみであった。
「あれは、なんだったんだろう・・・?」
「すげえな・・・」
「ああ・・・」
ざわざわ。
徐々に賑わいを取り戻していく人々の中、三人は呆気にとられたように立ち尽くしていた。
恵比寿屋が急に消えたからか?
いや、そうではなかった。
艶やかな桃色の残像の中、三人は確かに聞いたのだ。
面を少しあげた彼の者のくちびるが。
『またお会いしましょうね、新撰組の皆様。』
とささやいていたことを。
「・・・って、どうしたもんかねえ」
新年早々起こった奇怪に永倉はにやりと笑った。
生まれも育ちも東、生粋の江戸っ子である永倉にとっては奇怪はなによりも好奇心をくすぐられるものらしい。
「とりあえず報告、だね。」
「ああ、腹も減ったしな、帰ろうぜ」
三人は仲良く歩を並べて歩き出す。
彼らの帰るべき場所。
新撰組屯所へ。
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