第2章 望月の君

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正月も三賀日を過ぎ、徐々に日常に戻っていくのを感じる今日この頃。 新撰組の主な仕事である市中の見廻りもない非番の永倉は軒先で軽く溜め息をついた。 「なあーにが、また、だ。」 元日に出会った恵比須屋のことである。 あの日。 わらわらと屯所に戻った藤堂、永倉、原田は急ぎ起こったことを幹部に報告したのだが。 『一般市民の軽口にいちいち反応してるようじゃきりがないだろうが!そいつが来たときに考えろ、んなもんは。』 「土方さんめ・・・」 正月気分満載の幹部には軽く軽く流されてしまったのだ。 確かに攻撃を受けた訳でもあるまいし、別段気にすることではないのかもしれないが。 原田も藤堂もすぐさま宴会に突入してしまい、その話はお預けとなった。 「けどなあ・・・」 一般市民にはあるまじき気品。 何よりもあの早業の最中、わざわざ自分たちに残した言葉。 そもそもあの早業の訳も分からない。 恵比須屋の存在が永倉の中では大きく引っ掛かっていた。 眉をひそめてうなっていると、ふいに肩に綿入れがかかった。 「なーがくーらさんっ、どうしたんですか、そんな恐い顔をして。」 眉の間だけ土方さんみたいでしたよ!と真似をする青年を斜め後ろに見 つけ、永倉は薄く微笑んだ。 「総司か」 「火鉢も置かずにこんな軒先にいたら風邪ひきますよ」 長い黒髪を揺らしながら総司ー沖田総司ーは永倉の横にとすん、と腰掛けた。 永倉に綿入れを掛けておいて自分は薄着である。 「風邪ひくのはおめえだよ・・・まあいい、なあ総司。どうにも恵比須屋のことがひっかかんだよなあ・・・おまえはどう思う??」 手のひらに息を吹き掛けながら沖田はさらりと返す。 「んー、まあ私はどっちでもいいですかねえー。ひとまずその見事な舞は見てみたい気がしますがね。」 真っ赤に染めた頬でにっこり。 (ん・・・?) 「・・・総司、あーって言ってみな」 「あー」 「もっかいだ」 「あー「酒くさっ!!!」 (道理で薄着なわけだ) 新年だしーってへいすけにむりやりのまされたんですようーうえーたすけてくださいようーと絡む沖田に永倉は思わず白目を向いた。 (だめだ、こりゃ・・・) 恵比須屋のことは気になる。 ただ、気にしてみてもはじまらない。 それも事実である。 「よし、俺ものむ!つれていけ!」 一升瓶が待っている。
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