第2章 望月の君

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青年がそっと遠慮がちに藤堂の肩を叩いた。 「何度お呼びしても返答がないものですから・・・」 あまりの美青年に思考が完全に停止していたようだ。 「も、申し訳ない!!」 ごほん、と咳をしなおすと藤堂は改めて青年に向き直る。 その様子がおかしかったのか、彼は気づかれない程度にくすりとほほ笑んだ。 「私は新撰組八番隊組長藤堂平助です。あなたのお名前を伺いたい。」 すると青年は少し、残念そうな様子で眉を上げた。 まるで知らなかったのか、と言わんばかりに。 (なんか悪いこときいたかな、おれ・・・?) 藤堂にはその表情の意味が分からない。 「・・・あの・・・申し遅れました、私恵比寿屋と申します。」 (でも名乗るのって当たり前じゃ・・・ん?) 今なんと。 (んん!?!?) 今、なんと。 「・・・っは!?」 開口一番に出たのは組長とは思えないほど間の抜けた声だった。 (恵比寿屋、だと・・・っ!?) 思い出しなさったか、と急に青年は顔色を明るくし活き活きと話し始めた。 「どうもご無沙汰しております、藤堂様。すっかりお気づきかと思っておりましたが・・・いやいや、そんなことはよろしゅうございます。元日はたいへんお世話になりました。遅ればせながらこの恵比寿屋、お約束通り馳せ参じてまいりました。」 見間違えようもない大きな素振りで彼―恵比寿屋は頭を下げた。 「え、え、えびすや・・・??ほんとにか・・・?」 「はい、この恵比寿屋一度交わしましたお約束、守らぬようでは屋号の名折れ。藤堂様がお出迎え下さったのも何かの御縁かと・・・」 奇抜な桃色の長髪と恵比寿神の面。 艶めく黒色の長髪と色白の美顔。 長髪。 共通点? それだけだ。 にっこりと微笑み続ける恵比寿屋に藤堂の何かが切れた。 「わかるかあぁぁぁあああああ!!!!!!」 朝の静寂の中、響き渡る大声に目が隊士全員が目が覚めたとか、そうでなかったとか。
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