12人が本棚に入れています
本棚に追加
青年がそっと遠慮がちに藤堂の肩を叩いた。
「何度お呼びしても返答がないものですから・・・」
あまりの美青年に思考が完全に停止していたようだ。
「も、申し訳ない!!」
ごほん、と咳をしなおすと藤堂は改めて青年に向き直る。
その様子がおかしかったのか、彼は気づかれない程度にくすりとほほ笑んだ。
「私は新撰組八番隊組長藤堂平助です。あなたのお名前を伺いたい。」
すると青年は少し、残念そうな様子で眉を上げた。
まるで知らなかったのか、と言わんばかりに。
(なんか悪いこときいたかな、おれ・・・?)
藤堂にはその表情の意味が分からない。
「・・・あの・・・申し遅れました、私恵比寿屋と申します。」
(でも名乗るのって当たり前じゃ・・・ん?)
今なんと。
(んん!?!?)
今、なんと。
「・・・っは!?」
開口一番に出たのは組長とは思えないほど間の抜けた声だった。
(恵比寿屋、だと・・・っ!?)
思い出しなさったか、と急に青年は顔色を明るくし活き活きと話し始めた。
「どうもご無沙汰しております、藤堂様。すっかりお気づきかと思っておりましたが・・・いやいや、そんなことはよろしゅうございます。元日はたいへんお世話になりました。遅ればせながらこの恵比寿屋、お約束通り馳せ参じてまいりました。」
見間違えようもない大きな素振りで彼―恵比寿屋は頭を下げた。
「え、え、えびすや・・・??ほんとにか・・・?」
「はい、この恵比寿屋一度交わしましたお約束、守らぬようでは屋号の名折れ。藤堂様がお出迎え下さったのも何かの御縁かと・・・」
奇抜な桃色の長髪と恵比寿神の面。
艶めく黒色の長髪と色白の美顔。
長髪。
共通点?
それだけだ。
にっこりと微笑み続ける恵比寿屋に藤堂の何かが切れた。
「わかるかあぁぁぁあああああ!!!!!!」
朝の静寂の中、響き渡る大声に目が隊士全員が目が覚めたとか、そうでなかったとか。
最初のコメントを投稿しよう!