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移動用の幻獣を使う手もあるが、青年はその手の生物と頗る相性が悪い。
幻獣が本能で青年を恐れる傾向にあるからだ。
「……転移ゲートを占拠するか」
青年はあっさりと物騒な回答を導き出した。
極力他者への配慮を心掛けてはいるが、それが絶対の指針ではない。
彼の中ではあらゆるモノより優先する、明確な線引きがあるのだ。
「おいおい。これ以上悪評を拡げる気か? わざわざ我輩が此処に伝言だけをしに来たと思うのか?」
平面猫は影絵のように姿を揺らめかせながら笑う。
奇妙な鳴き声のような笑い声を聞きながら、青年は奇っ怪な猫との思い出を振り返った。
この猫には不可解な点が多い。
そして、その飼い主たる魔女にも。
その中でもはっきり分かる事が一つあった。
この猫は影を渡る――。
「貴様のマスターには貸しがあったな?」
青年が珍しく邪悪な笑みを浮かべた。
もとより手助けのつもりで訪れたが、猫は背筋に言い知れぬ怖気を感じた。
目の前の青年は、以前出会った時とは別人のようだとつくづく思う。
「やれやれ……偉いもんに化けおったな」
平面猫は少年の姿を思い出す。
あの頃の人間味溢れた表情が、懐かしいと思うのは仕方がない事だった。
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