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クルーズ船は上流階層が乗る豪華客船とは言えない、言わば中流階層向けの船だ。
娯楽施設にダンスホール、大浴槽。百人は収まりきるであろう食堂ではバイキング形式の食事が取られている。
その客船で生徒に宛がわれた二人一部屋にはベッドにテレビ、クローゼットとバスルームが備わっている。
「アーー、つまんね。そりゃ、最初は海とか綺麗だったけどさ~~直ぐに飽きちまうよな?」
テレビのリモコンのボタンをカチカチ押しながら、九条の相部屋の友人は言った。
ベッドの上で気に入っている小説
、ジュール・ヴェルヌ作を読んでいた彼は本に栞を挟み、友人を見た。
テレビの前でイスに座る彼は肘掛けに乗せた腕で頬杖を掻いていた。さっきから何回も同じ愚痴をもらしている。
「しょうがないでしょ? 隣のクラスが悪ふざけで火災警報のボタン押しちゃったんだから。今日は外には出れないよ」
次に出れるのは全クラスがダンスホールに集合するレクリエーションの時だけだ。
目的地である太平洋に浮かぶ島に到着するのは翌朝だ。窓から外を見れば外灯の光が無い純粋な闇が広がっていた。
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