第1話

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3月中旬に私たち家族は父親の仕事の関係で引っ越しをした。 当時、父親が運転する車の中で私は仲がいい兄と引っ越し先について話したりしながらワクワクしていた。 兄も同じような心境だったのか妙にそわそわしていたのを覚えている。 あっという間に新しい我が家に着き、私は待ちきれなくて一番に車から出た。 予想していた家とは少し違っていたが住み心地は良さそうな大きいアパートだった。 後から兄も車から降りてきて、呆けている私の隣に来てアパートを見上げた。 高1の兄の背は兄の同級生のなかでは高い方だった。だから私はいつも兄を見上げながら話さなければならなかったが私はその事についてはなんとも思わなかった。むしろ自慢したいぐらいだ。 私にとって優しい兄は本当に自慢の兄である。 「中に入ってみようか」 兄は私の背中を優しく押してアパートの階段へ向かう。両親は先に家に入っていくのが今見えた。私はうん、と頷き兄と一緒に階段を登った。 荷物の入った段ボールを全て家の中にいれ、業者さんにお礼を言って玄関のドアを閉めた。 思った以上に広い家でリビングもお風呂も十分に広かった。私は凄く気に入ってしまった。特に自室があることなど。前に住んでいた家は兄と一緒だったのだがやっぱり大好きな兄と一緒でも一人になりたい場所は欲しい訳で。長年の願望がようやく叶って凄く嬉しかった。 「二人共、自分の荷物を今日中に自分の部屋に持っていってね? 」 次の仕事に取りかかりながら母がそう言うと兄が口を尖らせて不満げにえー、と言うと父が兄の後ろから、ぬっと現れ兄の頭をげんこつで殴った。 「いった! 」 「文句言ってないで早くやれ。こっちも忙しいんだから」 頭を抱えながら兄は納得いかない様子でだらしない返事をした。それを聞いた父はそそくさと段ボールの中身を漁ったりして忙しそうにしていた。私は兄の裾をちょん、とつまんで段ボールに指さした。 「お兄ちゃん、持っていこ」 兄は笑顔で頷いて私の頭をポンポンと叩いて撫でた。 「おう、段ボール持てなかったら兄ちゃん呼べよ」 「うん」 私も笑顔で頷いて段ボールを抱えた。兄も私に続いて二段重なった段ボールを抱えて自室に運んでいった。
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