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「楽屋、戻らないの?」
「幸に集中力が足りないって突っ込まれたんで……。もう少ししたら戻ります。」
「相変わらず厳しいね~、幸は。そういうところが小山君と馬が合うんだろうね。」
幸は芝居のことになると厳しい。
虎太朗君にダメ出しをする幸の様子が浮かんでクスリと笑う。
二人で乱れた椅子を整えていると、不意に虎太朗君が私に問い掛けた。
「……あずささんは、また舞台に立ちたいって思わないんですか?」
きっと、虎太朗君にとっては何気ない会話。
その問い掛けが私の心を射抜くだけの威力を持つことに、彼は気付いていない。
「……あずささん?」
遠慮がちに掛けられた声に我に返る。
「あー、ごめんなさいね。ちょっとボォッとしてた。」
「……余計なこと聞いちゃいましたか?」
「ううん、大丈夫よ。」
大丈夫。
その言葉は意味を伴わなくて。
私は、そろそろ限界なのかも知れない。
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