この距離で…

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「………何でだ」 ああ、嫌だ。 『恋』ってどうするんだっけ…? 「?、何?」 俺、何で一人で…イライラしてんの? 「何で…仕事辞めんの…?お前のとこ、めちゃくちゃ優良会社じゃん。お前、もうすぐまた一個上の役職付くとこだったのに…」 機械的に口へと運ぶ物の味がわからない。 (俺…馬鹿みてぇ…いや、実際…馬鹿だよな…) わかってるのに…わからない。 ヒステリーを起こす気力もない癖に、一人で落ち込んで被害者ぶってる自分が1番嫌だ。 「それでだ」 「……は?意味わかんねぇけど?」 黒のスウェット。黒い薄手のシャツ。黒縁眼鏡。 有賀を見る。黒い瞳。 その全部が今日は見知らぬ他人みたいだ…。 「転勤。国内は想定内だが、ニューヨークだと」 「ニュー、ヨーク?」 たったそれだけの理由で? 英語なんて日本語と同じくらいに不自由なく使える芳野だ。それなのに…せっかくの昇進を蹴って辞めまでする理由がわからない。 そう顔にありありと出ていたんだろう。黙って箸を揃え、コンロの火を弱めた芳野の行動を目で追って 「ニューヨークにはお前がいない」 「……………」 次の発言で絶句した。 .
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