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本来、有賀はうじうじと悩むタイプではない。だからこそ、そんな風に変わった自分に戸惑い、そのドアを開ける時は異常なほど緊張したのに。
「遅い。俺が来るのも忘れて寝てたのか?」
12月の冷たい風と共に開けられた室内に入る男には全く変化が見れない事に拍子抜けて、肩透かしを喰らったような気分になる
「…ああ、…久々で寝過ぎた…」
昨日で今年最後の仕事が終った有賀と違って、今日まで仕事だった芳野はそのまま来たのだろう。乱れひとつないスーツに、趣味のいいコート姿で「ふぅん」と、その姿に似合わないスーパーの袋を有賀に手渡した。
「…年越しに鍋?」
やや細面気味だが鼻梁が高く、薄い唇に黒縁の眼鏡から覗く少しきつめの切れ長の目は男として充分魅力的で、学生時代から女にはよくモテた。
「お前蕎麦も生モノも食わないだろうが」
「………そうだった」
それは今も変わらないんだろうな。その袋の中に甘い物があまり好きではない芳野と違い、甘い物が好きな有賀の大好物であるメーカーのプリンが入っていて頬が緩みそうで困る。
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