この距離で…

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一見細身に見える芳野だが、実際に無駄な肉は一切ないものの、引き締まり綺麗な筋肉が付いた身体には軟弱さは全くなく。どうやら濡れたままらしい髪から滑るように落ちる水滴が肩から腰、胸から腹をたどるように濡らし。明るい電球の下で見るその身体は雄の色気が匂い立つようだった。 (俺…なんか…変だ) 二人が出会ってから10年近い日数があり、その間、こうやって芳野が出て来たのは初めてでもないし、温泉や海でお互いの身体は見た事があるというのに…。 ドキドキして…やばい…。 相手が…『恋人』だと思うと、熱っぽい身体と、早鐘のように打ち出した鼓動が、恥ずかしいほど『恋人』になった芳野を意識しているのがわかる。 「ええ。それで構いません」 「っ………!」 そんな状態で濡れた髪をかき上げた相手がふいにこちらを見るものだから、目を逸らす暇なく。普段、レンズ越しにばかり見るその双眸とぶつかり咄嗟に上げそうになった呻きを漏らさなかった事を褒めて欲しい。 .
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