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回想を終え僕は部屋の真ん中に目を移す。
まだ、時間は経っていない。
やることはひとつだけ。
この下らない喜劇の幕を降ろすだけ。
僕は冷たくなったももこに跨がり、頬を撫でる。
柔らかい。
まだ、柔らかい。
壊れ物を扱うようにそっと身体に触れてみる。
頬
首
胸
腹
足
普段、お仕置きしかしない場所。
そんな場所に触れていた。
愛してる
初めて言われたから。
だから、悲しかった。
こんな僕にももこは誰よりも透き通った声で
無垢な瞳で
愛してる、と。
怖かった。
真っすぐすぎるその感情が。
「愛してるってなに? 」
僕の手で骸となったももこの口から言葉がでることはない。
優しい微笑はまだ、保たれたまま。
「ごめんね? 」
僕はももこの頬にもう一度触れる。
ひんやりとする。
もう、死後硬直が始まっているのだろう。
どんどん、遠くなる。
「もも……こ」
今更ながら僕は泣きそうになっていた。
自分で殺しておきながら、死んだのを確認してから涙がこぼれるなんて滑稽だろう。
ポタリ、ポタリ。
頬に涙の雫がこぼれる。
それがツーッと伝いももこの頬にもこぼれた。
それはまるで、ももこ自身が泣いているかのようで。
あぁ、どうして気付かなかったんだ?
ももこの望んでいたシナリオじゃないか。
この子が僕の心に入り込み散々乱させておきながら、最後はDead・End。
冷たい骸と化す。
もう、僕は逃げられない。
頭から離れない。
「……最後まで君は……」
『■■■……さん、好きです』
『■■■さん、今日ねー、○○がねー! 』
あどけない声音。
かと思ったら、聞いたことのないようなすごく色っぽい声。
離れない。
もう離れない。
それを望んでいたのだから。
ももこはきっと。
だったら。
最後はももこの望むシナリオを壊してしまおう。
彼女にとってこれは終わりじゃない。
むしろ、始まりなのだ。
だから。
冷たくなった唇に口付けをして。
何度も、何度も重ねて。
顔を上げ、目に入ったのは睡眠薬のボトル。
眠れなくて医者から貰ったものだ。
まだ、二~三十錠くらいは残っている。
近くにあった水を口に含みボトルを傾け錠剤が一気に流れ込むようにした。
途中苦しくなり吐き戻しそうになったがそれでも、水と一緒に飲み込んだ。
睡魔に近い感覚。
僕は硬くなったももこをいつも以上に強く抱き締め、目を閉じた。
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