最終章

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不思議と苦しくなかった。 頭に浮かぶのはももこの笑う顔と声。 泣いた顔やちょっと拗ねた顔まで。 そして、最期に見せたあの微笑。 忘れられるわけがないのだ。 『愛してます』 真直ぐとした言葉は僕の罪悪感にはキツすぎた。 その澄んだ瞳に何もかも見透かされそうで。 『ずっと、あなたのそばにいたい』 潤んだ瞳に歪んだ熱情。 ももこにとってそれは紛れもなく恋だったのか。 でも、僕にとっては快楽を伴う甘い依存。 底無し沼に浸かりどこまでも沈んでいこうとする。 手を伸ばせど届かないだろう。 遠くに行ってしまったのだから。 『すみません。許して、■■さん、許して……』 絶叫に近い嬌声。お仕置きと称した折檻に恥じらいを忘れ彼女は狂った。 『もも、可愛いよ? もも……』 たまに抱くとき僕はももこを恋人のようにして扱った。 優しく壊れ物に触れるように。 でも、その後は激しく壊しまくる。 どれだけ、鳴いてもユルサナイ。 そんなことを繰り返しながら彼女は僕に依存していた。 当然か。 そうするように仕向けてしまったのは〝僕〟なのだから。 段々、意識が遠退いていく。 ふわふわとした感覚、眠りに落ちる一歩前のあの心地よくなっていって……。 視界がもう真っ暗で。 だけど、ひんやりとしたももこの感触はまだ残っている。 腕のなかに掻き抱く。 もう軟らかかった肢体は固まり、ただの肉塊と化し。 それでも、〝これ〟はももこ以外の何者でもない。 今、僕が無理矢理にでも目を開けばももこの最期の微笑は見られるだろう。 だが、それはしない。 僕のなかではももこは残像として形ではないが残っている。 ――あのあどけない笑顔のままで。 僕にとって今、ももこに対する行為は 今だに〝悪意〟でしかないと思ってる。 時に殺意を交え、憎悪を加え。 それでも、僕に縋りついたももこ。 怖いとも思った。 けど、それ以上にうれしかった。 〝僕を必要としてくれたから〟 まだ、いしきがあるうちに……。 まだ、ことばがわかる……うちに……。 もも、僕は君を憎んでた、殺意も悪意もあった。 けどね。 それ以上に大好きだった。 悪意と愛の狭間に揺られて落ちて。 最期は静かな終わりを魅せよう。 それが僕らの最期のパフォーマンスだから。                終
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