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「……要は気の持ちよう、ってことか?とは言ってもなあ。」
手にした本を閉じ、軽くため息をつく。
僕は時折、衝動に任せて仕事を休み、街を巡っては怪しげな古書店や骨董品屋に入り、怪しげな本や品を見つけはぼんやりと眺め、気に入れば購入することを趣味としている。有給の続く限りの趣味ではあるが、会社は会社で休みを取ることに対しては寛大だ。なにせ僕一人で有給消化率を跳ね上げているのだから。そんな事を繰り返しているものだから、自然と会社に僕の居場所は少なくなっていく。まあ、特に問題はなく過ごしている。と思っている。
話はそれたが、僕はオカルトマニアを自称している。しかし、こういったぶっちゃけ話も嫌いではない。
月夜の晩の丑三つ時に、ヤモリとバラとローソクを焼いて、潰して粉にして、スプーン一杯舐める。
そして一言唱えれば 、などとほんのり夢を見ているわけではあるが、現代にあっては非常識だ。非科学的だ。
その事は十分わかっている。
だが同時に期待している節があるのも事実。
魔法や魔術だとか、妖怪や幽霊だとか、あるいは運命さえも、何らかの要素が絡み合って存在することは全く不自然ではない。と、僕は考えている。
と言うのは、
「お客さん。」
と、閉じた本を手にして思考しているところで声がかかった。
ぼんやりしていた頭を切り替えて、やや低めの所から聞こえてきた声の主を見る。
少女と呼ぶか、女性と呼べるかは微妙な簡素なエプロンを着たやや小柄な眼鏡の店員さんだ。
その美しい髪は肩で切り揃えられている。こういう古臭い店では珍しい、気がする。
感情が素直に顔に出るのか、客に対して笑おう、と心がけてはいるようだが、目元はあまり笑えていない。
「うちね、一応立ち読みとか禁止してるんだけど……。」
首をやや傾げ、少し困ったような笑顔を向け、手に持ったはたきをやや上に向けている。
その先をたどっていくと壁の貼り紙を指していると分かる。
その内容は、まあ予想通り、
「店内ニ於イテ立チ読ミヲ禁ズ」
とても古風な文字が、達筆で書かれていた。
古書の類を置く店では珍しいと思う。
内容もそうだが、客が真贋を見るためにも中身の開示をしている店は多い。
とは言え、明示されているならば、悪いのは店員さんに声もかけずに中を読んでしまったらこちらである。
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