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来る日も来る日も、澄みきった青空の中を自由に飛んでいく鳥達を見ていた。
兄上の膝の上。
小さい頃の特等席。
庭に面した簀子縁に一緒に座りながら、私は小さく足をばたつかせ、空に手を伸ばす。
『日向?この塀の外には綺麗なものが沢山あって、人を包んでくれているんだよ。』
兄上の語る外の世。
大きくて、広い人々の世。
1年を通して知り尽す事の出来ない草木が咲き乱れ、人々は平安を祈り加持祈祷を行う。
卯月には桜が咲き誇り。
葉月には草木が多い茂り。
神無月には燃える様に美しい紅葉に。
睦月には柔らかな雪に包まれる。
語りつくせない程の美しさがあるという外の世に胸を膨らませ、何時か見るのだと、心の中で誓いながら広い空を見つめていた。
『兄上、夢が沢山なのですね!!』
私が問い掛ければ、優しく私を抱き締めてくれている兄上の穏やかな声が聞こえる。
『そうだね。夢を沢山見て、何時か見た外の世で夢を与えてあげれば良い。
その優しさは日向を守ってくれるから。』
その優しさ……?
兄上の言う言葉は少しだけ難しい時があって、理解が出来ない事とかもある。
だけれど、人々が色鮮やかに移り変わる季節の中で幸せそうに暮らしている姿。
それだけはちゃんと見えていた。
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