血肉の記憶

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あの冬さえ来なければ、兄さんはまだわたしと一緒にいたに違いないと、確信を持って思う。 兄さんは私を真綿にくるむようにして育てていたし、私はそんな兄さんのお陰で、彼がいなければ何もできないくらいには兄さんに依存していた。そしてそんな私を兄さんが見捨てるはずが無かったからだ。 そう、何よりそれに甘んじていたのが間違いだった。 あの冬二人で死ぬことなど、あたしたちにできるわけがなかったのだから。 フラーレンが生まれたのは他の年と何の変わりもない秋のはじめで、しかしながらその年の冬は、百年に一度あるかないかの厳冬だった。 冷たいと寒いが、今までずっと自分達を守ってきた洞窟にも押し寄せてきた。あたしの身体は小さかったこともあってすぐに冷えきってしまったから、兄さんは兎の肉を粗方剥ぎ取ってあたしに全て与えてから、兎の、毛ばかりの部位もあたしにくれた。 そこにいると、すこしだけ暖かくなって、わたしははしゃいだ。 兄さんはそんなあたしを、笑ってみていた。 冬の狩りがどういうものか、あたしはしらなかった。
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