血肉の記憶

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わたしの兄さんは、私より二年早く生まれたらしい。 私の一族の中で、二年というのは子供が大人になるまでの時間とほぼ等しいらしく、つまり私の記憶の中にいる兄さんはいつだって若いけれども大人の姿をしていた。 幼くてまだものがよくわかっていなかった私は、兄さんのことを、洞窟の入り口近くの白い冷たいものから発せられる眩しいもののようだと思っていた。 眩しくて捉えられない、尊いもの。つまりそれは美しいのだということを、あたしはあの洞窟を出て初めて知った。わたしが兄さんに育てられたあの洞窟には、生きていくのに必要なもの以外はなかったからだ。 それでも満ち足りていた、幸せだった。あの冬が来るまではずっと。
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