ご挨拶

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いろんなことがあって、今日はちょっと疲れた。 晩御飯、どうしようかな。面倒くさいな。 なんて考えてるとき、家のチャイムが鳴った。 7時ちょっと前。 みのりが忘れ物でもして戻ってきたのかな。 そう思って、確認もせずに玄関を開けると 「あ……」 そこには、先生が、頭をポリポリかきながら、気まずそうに立っていた。 今まで部活だったのかな? ジャージのズボンを履いて、汗が少しにじんだTシャツ。 ドキっと胸が鳴った。 「先生……。どしたの?」 胸のドキドキを隠して、なるべく冷静を装って言う。 「あのさぁ。 今朝はびっくりして、言うの忘れたんだけど……」 先生は、言いにくそうに、ポツリという。 「うん。私も、バタバタで、お礼いうの忘れてたよね。 車に乗せてくれてありがとう。助かりました」 深々と頭を下げてから、 「あ、そうだ、これ。 引越しのあいさつに配ってた、石鹸なんだけど」 玄関先に置いておいた、小さな包み紙を手渡した。 何回か渡そうと思っても、留守で渡せなかったもの。 今時そんなことしないから、いらないって言ってたのに、お母さんが用意していったもの。 先生は、 「そんなのいいのに」 と言いながら、手を差し出した。 渡すときに近づいただけの手と手。 それでも、緊張が走ってしまう。 「ありがとう。 で、それでな、俺、一応広瀬の担任だろ?」 うん。 私は、小さく頷く。 『一応』ってところが、先生らしい。 「広瀬もさ、隣が担任だと……、 なにかと窮屈だろうなって思うんだよな。 広瀬のいろんなこと知ったら、 俺も、一応、注意しないといけないと思うし」 「え?」 少し首をかしげた。 いろんな事って悪いこと? 何が言いたいのかよくわかんない。
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