はじまりは突然に

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ここは成田空港の出発ロビー入口。 これからお母さんは、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。 お父さんの海外転勤が突然決まったのは、 今から10日ほど前。 お盆休み明け初出勤の時だった。 普通はお父さんだけの単身赴任ってことになるんだろうけど、お母さんは大喜びで、 「私一度でいいからニューヨークに住んでみたかったの!」 と浮かれて言う。 「もちろん麻希も行くわよね?」 って誘われたとき、思いっきり引いてしまった。 高校生活これからっていう時に、今さら転校? せっかく高校で友達もできたのに。 私の沈黙をキョトンとして伺っていたお母さんに、思い切って申し出た。 「私、日本に残りたい!一人で暮らししたい」 って。 はじめはお父さんもお母さんも目を丸くして驚いていたけど、 少し間があった後 「そうね。いいわよ」 「いいんじゃないか? 置いておきたい荷物もあるし」 と二つ返事で了承してくれた。 お母さんの実兄の雄おじさんは、家から車で1時間ほどの距離に住んでいる。 そこから学校に通うには少し遠いけど、何かの時には駆けつけてくれる安心感もあった。 だけど、こんなにあっさり了承してくれるなんて、思ってなかった。 今まで住んでた社宅は出ないといけなくて、ばたばたと私の新居が決まって、引越しが終わった。 その新しいアパートを見届けてすぐに、お母さんは、ニューヨークに旅立つこととなったんだ。 「じゃあ、行ってくるね」 お母さんは何度も後ろを振り返りながら、出発ゲートの中へと姿を消していった。
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