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俺、椎木敬(シイキ ケイ)には誇れることがない。常に失敗しながら生きてきた。
被害者面ができない、自分のせいによる、正真正銘の失敗、ということになっている。
そうやって、生まれてこの方自分を卑下しながらずっとやってきた。
だが、俺はそれを、失敗する経験を積めたということでもある、と考えることにした。
たとえば一つを挙げるとして、祈(イノリ)との思い出を挙げたとするならこう考えられる。
あいつは一線を越えた偽善者だった。しかも甘ちゃんで、これ以上なく腹立つやつだった。だが、あいつがいたおかげでおかげで復讐という珍しい経験を積めた、と。
ひどくネガティブだが、悪い思い出ではなかった。
経験は、善くも悪くも人を成長させる。本人の受け止め方にもよるが……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
『肢次町で連続殺人事件が起こっています。通り魔のようです。夜間に犯行を行う傾向が高いようですので外出中の方は…』
タッチパネル式の黒いケータイから流れるラジオを切り、歩きながらだが、再び物思いにふける。
俺は考えた。どうせダメなら、せめて何か、世のため、人のためになることをしよう、と。
もう二度と……祈(イノリ)や美佐(ミサ)のような死者をだしてはならない。
あいつらの事件はまだ続いている。
あの奇妙な事件―――ここでは今は言わないでおく―――は、俺の中ではまだ終息していない。
俺は、変わる。絶対的な正義を持った人間に。
あの事件から逃れるため、あの事件から彼らのメッセージを手に入れるため、俺たちの偽善を解消するため。
俺は、あの事件から正義を知る。
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