虫けら

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この部屋は、やたらと雨音が響く。 私はうつらうつらとした、か細い眠りから覚め、陰鬱な雨音を聞くともなしに聞いていた。 精神科で、相当に強い睡眠薬を処方してもらっているのだが、それももう効かなくなっているようだ。 隣で眠っている妻の深雪の寝息が、私を安堵させた。 憂鬱症は、身近な者の心までも物憂くさせるという。 六年前の結婚当初、あれほど明朗闊逹だった深雪も、近頃では暗い顔を見せることが増えたように思う。 2DKのほの暗い闇に圧迫感を覚え、私はたまらず半身を起こした。 二年前、勤務先の広告代理店をリストラになってからの暗憺たる日々が、私の脳裏に明滅した。
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