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自らの命を断つ……
その思念が、鈍く光る刃物のように脳裏をかすめたことは、これまでに幾度もあった。
が、私にとってのその思念は、よりよく生きたいという願望の裏返しであったように思う。
私が希求してやまなかったのは、深雪との人並みな幸せな生活に他ならなかった。
しかし、日に日に虚無の水底に沈んでいく心に、私は絶望していた。
その虚無感から逃れようと、大量の睡眠薬と酒に溺れる。
私は自分の愚行を知りながらも、再起不能の廃人へと堕していった。
私は、心地よさげに眠っている深雪の寝顔を、しばらく見つめていた。
(ありがとう、さようなら……)
切に感謝の想いを込め、心でつぶやいた。
そして、ふらりと立ち上がると、よろめきながらスーツに着替えた。
黄泉の国の祖母に会いに行くのだ。
できるだけ立派な姿を見せたい。
朦朧とした意識の中を、そんな魯鈍な想念がたゆとうていた。
「……どこに行くの?」
玄関のドアを開けようとした時、背後から深雪の声が聞こえ、私は珍妙なほどにたじろいだ。
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