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呆然と振り向くと、深雪が起き上がり、不審げな面持ちで私を見つめている。
その風姿は、風に揺らめくユリの花のような儚さを感じさせた。
「ああ、ちょっと散歩にね、行ってくるよ」
私はせき上げてくる悲しみに、震える声で答えた。
散歩……
そう、黄泉の国への散歩……。
帰路のない散歩に思いを馳せ、私はこの世のしがらみから解放される安堵感と、深雪への哀絶の情がない交ぜになった混交の念を覚えた。
「そう、気をつけてね……」
深雪は、不安げに言った。
陰鬱な雨の降る、まだほの暗い朝に、スーツを着て散歩に出掛けるなど、どう考えても面妖なことであろう。
しかし、私の最近の奇行に慣れてしまっている深雪は、若干の不審感を覚えただけのようであった。
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