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(ありがとう、さようなら……)
深雪の細面の美しい顔ばせをしばらく見つめ、私は哀絶に震えた。
六年間の、幸福から凋落、そして破綻への結婚生活の記憶が、私の脳裏で明滅する。
(何故こんなことになったのだろう……)
(深雪を、幸せにしてやりたかった……)
(ごめん、本当にごめん……)
そんな悔恨が、今更ながら、心の奥底から瘴気のように立ち込めてきた。
どこか淋しげな顔で私を見つめる深雪の瞳が、潤んでいるように見えたのは気のせいだろうか。
混交する理不尽な情動が、心の中で弾け、慟哭してしまいそうな思いに駆られた。
私はすべてを断ち切るように振り返り、ドアを開けた。
玄関を出ると、静かにドアを閉めた。
ぱたん……という、ドアが閉まるかすかな音が、深雪との永別を告げる哀しい嗚咽のように、私の耳底に残った。
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