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(これで、すべてから解放される……)
私を縛めている、様々なしがらみから。
終わることのない無明長夜、睡眠薬と酒に溺れるだけの怠惰な日々、自己嫌悪、そして……
決して結実することのない、深雪への狂おしいほどの情愛から解放されるのだ。
自らの命を断つ……
それがどれほど傲慢で恥ずべき行為であるか、そんなことを斟酌するゆとりは、もはや私の疲弊し切った心にはなかった。
私は弱い人間であった。
ただ、ただ、この憂き世から逃遁したかったのだ。
私の命が、この地上から消えることによって、深雪は救われるかもしれない。
そんな痴愚きわまりない、自己中心的な観測だけが、私のこの愚挙を正当化するよすがであった。
遺された深雪が、心にどれほどの傷を負うか……
そんなことは考えてもみなかった。
雨に打たれるほの暗い住宅街の小路を、私は傘をさしてよろよろと歩いた。
(ばあちゃんに会いに行こう……)
朦朧とした私の脳裏に、祖母の慈愛に満ちた笑顔が浮かんだ。
《完》
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