『電気羊の残滓』

10/30
前へ
/30ページ
次へ
「ワトスン君、ちょっと来てくれ!」  アリス先輩から呼ばれ、僕は内心安堵していた。そっと越谷さんの手を離し、先輩の元へと駆け寄る。 「どうかしたんですか?何かありましたか?」  先輩が黙って指差す先にあったのは、パソコンだった。その周囲をよく見てみると、先程までの離れた位置からでは見えなかった、あるものに気付いた。    それは、周囲に点々と残された、赤黒い液体の跡。   「これって……もしかして、血ですか?」 「詳しく調べる必要があるだろうけど、見たところ間違いないだろうね。人間のものか動物のものかまでは断定出来ないけど、血痕には間違いないと思うよ。いよいよ事件らしくなってきたね!」  先輩は鋭い目つきとは対照的に、口元にはどこか楽しげな笑みを浮かべている。   「仮に人間の血とすると、誰か怪我をしたことになりますよね」 「そうなるね。ワトスン君は後で保健室に行って、今日、出血を伴うような怪我をして治療を受けた生徒がいないか確かめて欲しい」  僕は頷く。残された血の量は見た限りそれほどではないと言っても、切り傷を負ったとすれば少し深めのものであるのは間違いなさそうだ。  少し指先を切っただけなら自分で絆創膏を貼るぐらいで済ませるかもしれないけれど、ここまでとなると消毒の類も必要だろう。   「実はね、ワトスン君。血痕もそうなんだけど、注目して欲しいのはこれだけじゃないんだ」  そう言って先輩が指示したのは、パソコンの画面だった。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加