『電気羊の残滓』

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 ダイイングメッセージとは一見すると意味不明なものである。  それは、ダイイングメッセージをテーマに扱ったこの世に存在する殆どのミステリ作品において成立する公式だ。  その理由について、先輩は次のように語っていた。   「死ぬ間際は時間がない。そして犯人に気付かれては消されてしまう可能性がある。だから残された命で、必死に手掛かりを残そうとすれば、通常の状態の頭ではおよそ理解不能なものになってしまうのは仕方がないよね」    それを聞いて僕はたしか、このようなことを言った。   「死の間際だからこそ、もっとシンプルなことしか考えられないものなんじゃないですか?」    僕の言葉に、先輩は笑った。   「ワトスン君は夢がないなあ。圧倒的にロマンが足りないよ、そんなの!」    人がこれから死ぬという状況について、夢やらロマンを求めることが間違っている気はするのだけど、曖昧に笑って誤魔化しておいた。    さて、これは僕と先輩が出逢った、ちょっと変わったダイイングメッセージの事件だ。  先輩と共に関わった中ではとても小さな、それでいて何より『奇怪』なものだった。  せっかくだから、ここに書き記してみよう。
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