『電気羊の残滓』

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 きょろきょろと室内を見渡してから、僕を見てにんまりと口元を歪める。 「なあんだ、ワトスン君だけか!丁度良かった!さあ、現場に向かおうっ!」  毎度のことながら、先輩の勢いに圧倒され、僕はだらしなく口を開けたままだった。   「……そこは、僕だけってことに落胆するところでしょう」 「何を言うか!探偵とワトスン君さえいればこれ以上何が必要だと言うのさ!レストレード警部でも呼ぶかい?」 「いや、いいです。分かりましたよ。行きますよ」 「そうこなくっちゃ!」    レストレード警部というのは、ワトスンと同じくシャーロック・ホームズシリーズに登場する人物だ。  何を隠そう、先輩は自他共に認めるホームズマニア。ホームズオタク。  いわゆる、シャーロキアンというやつだった。    普段だったらもう一人の一年生部員と一緒に行くことが多いのだけど、こうして今回は珍しく僕と先輩とで事件へと向かったのだった。  おっと、今日の時点で珍しいことなのであって、この時点では初めての二人行動だったっけ。    アリス探偵とワトスン、初の事件。  そう説明すると、なんだか凄い事件が起きてしまったかのように見えるけれど、決してそんなことはない。  何度も繰り返すけれど、とても小さく『奇怪』な事件の記録だ。
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