『電気羊の残滓』

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 階段を駆け上がる先輩を追い掛けながら、僕は先輩の背中に質問を投げかける。   「現場はどこですか?」 「4階。研究所隣の空き教室」 「研究所隣って……もしかして、博士絡みですか?」 「んー、どうだろう。私もまだ『何かがあった』ってことしか聞いてないからねー」    それだけ聞いてすぐに駆け付けようとするなんて、この人は凄まじいな、と思った。  そもそも今だって依頼されていた事件があったはずだ。  確か、失くしてしまった指輪を探してほしいというのと、とある教室の机に謎の落書きを残した犯人を見付けて欲しいというもの。    先輩は基本的に来るもの拒まずの人なので、どんな依頼でも受けてしまう。  先日はクラスが違う彼氏の浮気調査なんて頼まれていた。  探偵らしいといえば探偵らしいのかもしれないけれど、高校生としてそんな依頼はどうなんだろうと思わないでもない。    それでも、どんな依頼だってアリス先輩は全力で取り組む。  依頼人が納得する結果を出してみせる。  後輩として、そしてワトスンとして非常に尊敬しているところだ。    先輩のことだから、どちらの依頼も既に解決済みなのかもしれない。
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