『電気羊の残滓』

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 間もなくして、何かしらの事件現場となったらしい空き教室に到着した。  部屋の前では白衣の生徒――恐らく、女子が立っていた。恐らくというのは、前髪で顔が殆ど見えないから断言し難い為だ。  白衣の下から白く細い両足が伸びているのを見て、漸く女子だと判別出来た。ここまで髪を伸ばしている時点で男子と思う方が難しいのだけど。    先輩がその人に声をかける。 「やあ、君が連絡をくれた越谷【こしたに】さんかな?」 「は、い。そう、です。越谷湖町【こまち】、です。1年、です」  ぼそぼそと消え入るような声が髪の奥から響いて来る。なんとも危なっかしいというか、こっちが不安定になりそうな感じだ。失礼だから口にはしないけれど。    ふと気になったので、僕は越谷さんに尋ねる。 「もしかして、博士さんの関係の人ですか?」 「えっと、はい。博士の、ところで、助手のような、ことを、させていただいて、ます」    ああ、そうだ。先程から会話に登場する「博士」についても説明しておいた方がいいかもしれない。  その前に、この学校のとある制度についても軽く紹介しておこう。  雨洗美高校には、『超特色入試』というものが存在する。いわゆる一芸入試のようなものと思ってくれれば問題はない。  その入試を通れば学費等が免除されるということもあって、様々な特技を持った人が入学してくる。    例えば、とある有名なマジシャンの娘とか。海外でも評価されるアニメクリエイターとか。  スポーツ万能オールラウンダーとか。退魔師の巫女とか。忍者の末裔とか。日本トップクラスのハッカーとか。  博士と呼ばれるその人もそんな内の一人で、発明家としての才能を持っているこの学校の有名人だ。
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