「俺の」物語は始まる。

10/11
前へ
/118ページ
次へ
しかも、聞けば聞くほど彼らは交渉というよりも嘆願をしに来ているようにしか聞こえない。 あとなんか、脳みそ花畑で通訳の声は無視していたけど、言っていることが違っていると気が付いた。 ヌルマンカ使節団は、自国のアルファの王子との婚姻話なんてひとこともしていないのに、通訳や領主はまるでそのことがメインであるような口ぶりだ。 (…ってことは、なるほど。そりゃぁ小説のルマンディオがジークフリートに嫌われているはずだよ。) ジークフリートは騙し討ちみたいに輿入れさせられたのだろう。 おそらくこの領主と通訳は婚姻契約の調印が済んでから使節団が帰路につく道中か帰国の寸前に「王家からの通達」として、アルファの王子ジークフリートとオメガの王子ルマンディオの婚約が成立したと言うつもりなんだろう。かといって断るような悪い話では決してないむしろ小エビでクジラが釣れた話に否やを唱えられるはずもない。 アドルスネイブ大公家がこのことに関与しているかどうかはともかく、実際にこの話が持ち上がっているのなら立会人として登城している領主は真っ黒。黒幕だ。 しかも使節団の団長は第二王子であるから、この話がお互いに通じていようがいまいが「王家同士の合意」とみなされておかしくない。 アドルスネイブ公国は次期王配の後ろ盾を名乗れるし、王家は優秀なアルファの王子を王配として確保できる。それも早い段階の、まだ幼い年齢から輿入れさせてしまえば教育する猶予がある。 ヌルマンカ王国も大国ランバート王国との王家同士の結びつきがあれば他国を蹴散らせる。 何をもってしてもWIN‐WIN-WINなはなしではあるが、唯一ジークフリートの気持ちだけが蔑ろにされている。 …物語のジークフリートが悪役ルマンディオに理不尽に振り回され一緒になって苦労してくれるエリオットと束の間の休息をともにしている時、「俺は本当は祖国を離れたくなかったんだ…」と零すシーンがある。あの背景はそういうことだったのか、と変に納得してしまった。 、
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加