邂逅。

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ただその為にはやることが山のようにあった。 とりあえず身の安全の為に王宮に留まることにしたし、未来のヒーローであるジークフリートを懐柔し断罪回避という方向は決めていたが、万が一に備えて逃亡という選択肢は常にあった。 物語寸前で飛ぶにしても、資金面がなかなか難しい。 王侯貴族というものは贅沢な暮らしはしているがそのすべてを一円単位で管理されてもいる。 そりゃそうだ。領民や国民からの税金ですべてを賄っているのだから不透明な使い道などあってはならない。 装飾品の小さな宝石がひとつ無くなった、それだけで使用人が血眼になって探し見つけ出すまで休むことも許されなくなる。 だからこっそり「くすねる」なんて横領も難しい。 しかも王族なので現金とも縁遠い。 もちろん見たことはある。単位も知っているし価値も理解している。 でも、手に持つ必要がない立場なので自分のお金を1円も持ったことは無い。 唯一個人の財産となるのは贈り物だけだが、…これもまた王族宛なので高級すぎて市井で換金すれば足がつく可能性が大きい。 それで考えついたのが自分自身だった。あ、春を売って金にしようってんじゃねーからな? 知識と技術は金になるのはどこの世でも常識だ。 だが前世知識で突拍子も無いことをすれば目につけられるだろうから、この世界で一般的な知識と技術を身につけることが自分の今後の人生を助けるだろうと思い至った。 しかし俺は男だけどオメガだから肉体労働は無理。ヒートがあるから常勤も無理。ならば内職系か?ってことで淑女教育の一環でもある手芸に精を出し、切って売れる髪を伸ばすことにした。 丁寧に丹念に手入れされた髪はコシがあっていつでも艶々ぷるんぷるんだ。俺が誇れる最大の財産だと自負している。 、
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