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☆
「――はぁ、――はぁ、」
小枝を踏み、茂みを突っ切り、草木を掻き分け俺は逃げていた。
僅かに頭の中で響く痛みを無視し、息を切らせ、自身の限界運動能力を無視して。
長い目的のない道をひたすら走ってきたからか足が痛い。
唯一の救いと言えば4月下旬特有の微妙に温かい空気だろうか。
深夜と言えどその空気は俺の口の中を行ったり来たりしているのを感じる。
これが冬だったら鼻から入る冷たい冷気で俺の体力はあっという間に奪われているだろう。
それともう1つ。
風貌だけならヤバイ系の仕事をしているとしか思えない担任教師
世話焼きの幼馴染
生真面目で天敵な風紀委員
そんな奴らと常日頃追いかけっこをしているおかげで、一般的男子高校生の標準値よりは高い持久力がある事くらい。
だが今だけは状況は全く違う。
いつもの日常なら捕まったとしても待っているのは形は様々な教育的指導だろう。
が、ここで捕まった時自分を待ち構えているのはそんな生易しいものではない。
それが俺がこうして駆ける足を止める事を許されないただ一つの理由であった。
顔を横に向け、ギリギリの所で目を後方に向ける。
そこにあるのは闇。
森特有の闇ではなく、明らかに異質の闇。
蠢く影……と表現するべきだろうか、その手の知識の無い者でもそれがこの世界の法則に従い、この世に本来存在するものでは決してないという事はよく分かった。
それが俺を追いかけ、俺が逃げているものの正体。
理由なんてものはない。
理屈だってない。
だがこれだけは分かる。
あんなものに追いつかれたらどうなるか。
それは明確な――――『死』そのものだと。
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