観察される日常

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変わることのないいつもの日常だった。 『HF012よりHQ、対象NT及びHYの帰宅を確認、特異なし、帰宅順路通常』 マンションから少し離れた駐車場に止めた自動車から彼女たちの日常を観察する者がいた。 服の右袖に付けた小型のマイクに何かを報告する観察者はどこにでもいる30代くらいの男性だった。 この男性はどこかに報告した直後にマンション駐車場に停車していた白いワゴン車がなのはとはやてを追うように駐車場を出て行く。 海鳴市内のテナントビルにその者達はいた。 『町沢経済研究事務所』と書かれたその事務所は明らかに他のテナント住人とは違っていた。 外界の視線を遮断するためか、一日中窓はカーテンで閉められている。 事務所前の廊下には段ボールや旧式のコピー機が雑に置かれていたが、それはこの事務所に余所者が近づかのように築かれたバリケードのようだった。 そのためかこの事務所を訪れる訪問者はいない。 事務所の中もまた異様な空間だった。 事務所のなかは飾りはなに一つなく、かわりに何かの機材や資料の入った段ボールが置かれていた。 ヘッドセットをつけた数人の男性達がデスクトップ型のパソコンを操作していた。 パソコンには市内の地図と移動する赤や青の点が、別パソコンには街中を歩く二人の少女が映しだされていた。
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