逃げ道

27/30
6484人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
しばらくして、晶が戻ってきた。もう、血は全然付いていなくて、いつもの晶の姿だ。さっきの姿が嘘なんではないかと思えてしまったが、晶の暗く、居心地の悪そうな表情が嘘ではないことを伝えてきた。 「....お前、外で何してるの?」 しばらく沈黙が続いて、思い切って口を開いた俺に、晶も渋々といったように話し出した。 「...別に、大したことじゃねぇよ。 街で悪行ばっかりやってるどうにも気に食わねぇやつらぶん殴ってるだけ。ただの気晴らしだ。 巷じゃ俺のこと恩人みたい扱うやつもいるから笑えるよな。俺はただ自分の都合で、人を傷つけてるだけだってんのに」 笑えると言ったが口調は全く心がこもっていなかった。 俺にはどんな理由が晶に常習的にそんなことをさせているのか、分からない。 けれど、初めて晶の内側に少し触れられたような気がした。 「...分かるかも、その気持ち。」 俺の言葉に、ずっと下を見ていた晶が少し目線をこちらにやった。 「俺もさー、とある事情で学園に居づらくなって。1年くらい前からずーっと部屋に引きこもって、ゲームばっかしてんの。もちろん自分で勉強はしてるけど、親に金出してもらっといてさ、授業にも行かないし友達も作らないし、ほんとここに来た意味無駄にしてんなーと思うわけ。でもさ、悪いと思えば思うほど、どうしてもやめづらくなるんだよな。 ...って、こんなのと一緒にすんなって感じだよな。はは...」 なんだか俺も自分のことを言うべきな気がして、一方的に話してしまった。言い終えてからなんだか居心地が悪くなって、目線が泳ぎ、だんだんと下へさげてしまう。 「....お前って、つくづく良い奴だよな。」 はっと見上げると、晶は僅かに微笑んでいた。 俺は晶の表情が少し明るくなったのにほっとしたが、さっき、晶の行動を聞いてから記憶の中でひっかかっているなにかを、どうしても思いだせずにいた。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!